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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
彼女はかくして女給になりました。彼女に男を飜弄する腕ありと信ずるは、太陽西より出づる事を信ずるが如きものです。彼女があのブルジョアの道楽息子に会ったのは勤めてから僅か六ヶ月目です。私は小夜子が、その短い間に凄い妖婦になったとは信じませぬ、誰よりも一番よく彼女の性格を知っているのは兄の私です。彼女は断じて清浄な女でした。
この清浄な、無垢な女を汚したのは誰ですか。
金さえ出せばどんな女の貞操でも得られると確信する成金の道楽息子です。彼はそもそも何者です。親の脛を噛っていながら学業をよそに、狭斜の巷を放歌してゆく蕩児です。
彼女が彼をひっかけたか、彼が彼女をひっかけたか、解決は実に簡単ではありませんか。
世間の経験の浅い十九の女が、彼の妻になり得ると信じたのがそんなに不自然でしょうか。彼女が彼のような獣に恋したことは、彼女の不幸ではありますが、彼女の罪悪ではありませぬ。もし彼女に過ちがありとせば、それは兄たる私の忠告を容れなかった一点でしょう。
私は、自分が余りに信用が無いために、小夜子に度々会う機会を恵まれませんでしたが、然し彼女が春一と仲がよくなったと知った時、極力気もちを飜がえさせようとしました。