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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
私はなるべく多勢の人々に見られるように酒をのみました。楼上で春一が芸妓を集めてめちゃめちゃな騒ぎをやっているのを聞きながら、
「運転手さん、そんなにお酒をのんで大丈夫なんですか、道は大丈夫ですか」
と誰かがいったのをはっきり聞きました。これで私が酒をのんだことは大丈夫人の印象に残ったと見ていいでしょう。
十時過ぎ、春一がひょろひょろになって玄関に出て来ました。私は直ちに山を下ろうとしますと彼は、
「帰るんじゃない。登るんだ、レークサイドへとばすんだ」
というのです。凡ては地下の妹が導いてくれているんです。命に応じて私は、車の方向を逆転しました。
あなたは、あそこの地理を御承知ですか。湖畔までは急坂ばかりでそれが右左に曲っています。そうして傍をS河の激流が岩を噛んで流れています。
道は大抵三間位あります。そして一歩登るに従ってS河の岸は、崖下にだんだん下って行くのであります。
昼間こそ湖畔の下の温泉との間に往復する自動車や、行人が多く通りますが、夏でもない今時分余程の物好きでなければ夜十時前後に車をとばせる者はありませぬ。
発車してから二十分ほど経って一台のトラックが上から来るのに出会ったきり、あとは誰にも会いませんでした。