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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

果して春一と小夜子の上にも或る不幸が落ちかかって来ました。しかも普通以上の不幸が彼ら二人を襲ったわけです。

二人は蜜のように甘い恋に酔いながら、七月、八月を過ごしやがて九月に入りました。この月に入ってから小夜子の身体に異常が見え始めたのです。小夜子はむしろ喜んだかも知れませんが、春一にとってはこれは非常な事件だったのでした。

というのは、我が子の身持に対してひどく気を使っていた健吉氏夫妻は、少しも早く嫁を貰おうというので前から方々物色していたのですが、夏休中にとうとう或る法学博士の令嬢に白羽の矢を立てました。少くも健吉氏夫妻には非常に気に入った令嬢が現われて来たのです。

私は、お恥かしい話ですが、女に真剣に恋をしたり、又されたりした経験が無いので、この場合、春一の位置にあるものが如何するものか、又如何にすべきものかよく考えたことはありません。しかしいろいろの事情を見ますと、春一は小夜子を少くも或る時代は、心から愛していたと思われますから、健吉氏夫妻の申出が、簡単に春一に受け入れられたとは、思われません。

必ずやこの場合、親子の間には相当の永い間、争いがあったに違いありません。