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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

けれども結果から見ると、子は親に従がったのです。そうして十月ごろには、春一はもう立派に某博士の令嬢と許婚の間柄になってしまったのでした。

問題は春一がほんとうに小夜子を思い切ったか如何かという事と、小夜子が黙って引き下るか如何かという事です。

始めの問題に対しては不思議にも――或いは決して不思議でないかも知れませんが、極めて簡単に、「然り」と答えられるのです。いや、思い切った所か、彼は未来の妻たる令嬢に対して愛をすらももちはじめたのです。此の事は後に春一が私に対して明かにいっております。

ところで、後の問題が容易ならぬ結末を招来したのでした。

はじめ小夜子は春一にくどかれて(不愉快な言葉ですが、判り易いから用います)従ったらしいのです。ところが段々と女の方が恋を感じるようになり、殊に春一のたねを宿してからは彼女は全く春一のものでした。

この小夜子の気持は後に法律問題として、犯罪の情状の問題として、非常に重大になった点ですから、あなたにも一応考えて頂きましょう。

つまり、小夜子が真に春一を思っていたのか、或いは、カフェーの女給という職業意識で、単純にブルジョアの息子と戯れて居たのか、小夜子が死んでしまった以上、可なり真相を知るのが困難なわけです。