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あぶらじごく
油地獄
斎藤 緑雨
「国会新聞」1891(明治24)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页
目賀田貞之進が、愚直と斥けられた今に及んで、たとい自分が芸妓を呼たいためと言ないまでも、聞くさえが畢生の恥辱のように思われ、どうしたら宜かということが、小歌を思うが故に小歌を思うより一層切であった。宿を出て近辺を散歩するに、若い男若い女が手を牽合って歩いて行くのを見るごとに、羨ましいような妬ましいような、蔑むような侮るような、名状のならぬ心持が自分に起り、傍らの古本舗を覗き込むと、色男の秘訣と題した書がふと目に留り、表紙に細々と載てある目録を、見るように見ぬように、むしろ見ぬように見ぬように、横目で読むにその初めが娼妓買の秘訣芸妓買の秘訣、貞之進は我知らず飛立ったが気が附て隣の文集やら詩集やらをもとめるふりで、そっと正札をうかゞえば金十銭、これで芸妓買の秘訣を得ることならば、いや/\秘訣には至らないでも手続だけ分ることなら、安い物だがと本屋の顔を見るに、ぎょろッとした眼がこっちを嘲るようなので、明らさまな色男の秘訣とあるものを、のめ/\と買いもしがたく、買うは一旦の恥買えば永代の重宝、買うべし/\としきりに肚では促す