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あぶらじごく
油地獄
斎藤 緑雨
「国会新聞」1891(明治24)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页
方の魚軒が二片程箸に懸ったばかりだ。
帰り際に臨んでまだお早いでは御座ませんかは、かゝる土地の習いだけれども、それを貞之進は誠にしていつまでも此家に居たく、勘定と云たいのが云えずにむずついて居る間に時刻が移り、月高く屋の棟に隠れて、鳴る鐘は浅草の十一時、風に乃の声も伝わらない、お車はと婢に問れて、思切って勘定をと云うと帳場ではすでに出来て居て、車より先に書附が来た。請取と剰銭とを盆に載て出され、いつぞや同宿の相原が、どこかで剰銭は入らないよと云たのを憶い出し、わずか六銭という剰銭を、この淀文へ残すもおかしく取るもおかしく、しばらくそのままにして居る傍から、どうぞ御近日と今日は「どうぞ」を判然云われて、それを汐に立って婢があなたと呼んだは、その剰銭を請取へ包んで呉れたので、今となって残したのが気まりが悪く、急わしく袂へ投り込んで梯子を下りる後から、帽子を持て随いて来た小歌が、帽子の内側に名刺の挾んであるのを認け、これはあなたの、そうなの、目賀田さんと云うのと、のゝ字三つに念を入れて推されたので、恥しくもないことにぽっとし、お立ですよと婢が高く呼ぶと、ばた/\と男女二三人送りに出たのでまた縮くみ、玄関へ下立つと今日周章てゝ穿ちがえて来た