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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

ものは油であった。油は次第に※(「睹のつくり/火」、第3水準1-87-52)えて大小の粒のぶつ/\と沸立つ頃から、貞之進の形相は自然に凄じくなって、敲き附るように投込んだのは小歌の写真で、くるくると廻って沈んだと思うとすぐ浮上り、十二三分の間に写真は焦げ爛れて、昨日までは嬉しくながめられた目元口元、見る/\消て失ったを、まだ何か鍋の中に残って居るように、貞之進は手を膝に突いて瞬きもせずきっと瞻詰めてその夜の明るのも知らなんだが、火勢ようやく衰えて遂に灰となる時、貞之進の首は前に垂れて果は俯伏しになってしまった。早起の秋元の女房が、なお室内に残る煙に不審を立て、何の臭いかと貞之進の部屋の障子を、がらりと明けたその音に貞之進は驚き覚めて、や小歌かと突然起って足は畳に着かずふら/\と駈寄ったが、あっと云って後退る女房の声と同時に、ぱったりそこへ倒れて、無残、それから後は病の床、頬はこける眼は窪む、夜昼となしの譫言に、あの小歌めが、あの小歌めが。

(明治二十四年五~六月)