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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
初めてお国入りをなすった年でしょうか、珂知川へ水練にいらしったのを、わたくしほんの近くから拝見したんですの。
いま川普請をしているところから、ほぼ十町あまり川上に、藩主のための水練所があり、そこから上下五町の川筋は「お止め場」といって、一般の者は立入り禁止になっていた。岡野さえはそのとき、三人の友達と水あびにいった。彼女にとっては初めての水あびだったそうで、珍らしさと面白さに、自分がどこにいるのかもつい忘れてしまった。そのうちに友達の一人が驚いて声をあげ、お止め場だと云って、慌てて川岸の芦の茂みへ逃げこんだ。さえと他の一人もそのあとから逃げてゆき、茂っている芦の隙間からそっと覗いてみた。――流れの中に幾人かの裸の侍たちが、横に並んでお止め場を警護しているのが見えた。三人の少女はみな唇を紫いろにし、がたがたとふるえながら、みつかったらどうしようか、という恐怖のためすくみながら、同時に、できるなら殿さまをひとめ見たいという、強い好奇心のとりこになった。水練場には仮屋を建て、定紋を染めた幕がまわしてある、それが藩主の脱衣場であるから、水中に立っている警護の侍たちの向うで、藩主が泳いでいることは慥かだった。