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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
おりうは幾たびかそういう侍客に反抗し、爪を立てたり噛みついたりしたことがある、といった。
「そのあいだに」と安宅がきいた、「――いい人はひとりもできなかったのか」
「ひとりも」とおりうは答えた、「おっ母さんにはできたのよ、あたしが十六になった春、呑んだくれの左官屋といっしょになったわ、躯がこんなに太って、どこもかしこもぶよぶよして、朝から晩まで呑んだくれていたわ、おおいやだ」おりうは顔をしかめて頭を振り、肩をすくめて身ぶるいをした、「いま考えてもぞっとするわ、女っていやなものだって、つくづくそう思ったものよ」
それで稲毛へ住込みにはいったのだ。
侍客の多い稲毛はおりうの気にいった。そうしてすぐに芳村伊織と会った。五人ばかりといっしょに来た芳村は、あびるほど飲んでもあまり酔わず、声もたてないでおりうを見ていた。ふと気がつくと、あたたかな、劬るようなまなざしでじっとおりうをみつめているのである。おりうは生れて初めて、自分が女だということを感じ、これまでかって起こったことのないものが、躯の奥のほうでなまなましく動きだすのを感じた。
「こんなこと云っていいのかしら、笑わないでね」