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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
おりうは彼をにらんだ。そのとき障子の外で「おねえさん」と声をかけてから、だんごがはいって来た。だんごは酒と肴をのせた盆を持っていて、安宅に笑いかけ、こっちへ来てその盆をおりうの脇に置いた。おりうは膳の上の徳利や皿をおろし、新らしい徳利や肴の皿小鉢を膳へ移した。
「先生」とだんごが呼びかけた、「この着物いいでしょ」
荒い滝縞の着物の、両袖を左右にひろげてみせながら、だんごは昂奮したような眼つきで安宅の表情をうかがった。およしなさい、ばかねえとおりうが云った。
「うん、いいね」安宅は頷いた、「よく似あうよ」
「おりうねえさんにいただいたの、わりと似あうでしょ」
「よく似あうよ」
おかみさんもおわきねえさんも似あわないって云う、おわきねえさんが似あわないって云うのは、自分が欲しいからだと思う。だんごはそんなことを話し続けようとしたが、おりうに注意されると、盆を持って立ちあがり、なにやら残り惜しそうな動作で出ていった。
「おわきさんのお目付よ」おりうは安宅に酌をしながら云った、「みていてごらんなさい、こんどは自分でやって来るから」
「ちまらないことを気にするな、おわきはとちも三十だっちいうじゃないか」