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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
「こっちは本気なんだ」と芳村がするどい口ぶりで云った、「待ってやる、立って抜け」
「おれの親類に園部鎌二郎という若者がいる、おれの死んだ妻の弟で」
「ごまかすな、その口にはのらぬぞ」
「そう思うなら斬れよ、どんな卑劣な騙し討ちだってやれるんだろう」彼は芳村の顔を見あげたままで云った、「その鎌二郎は、おれが死んだ妻の法要をしたとき、こんな法要はごまかしだと云った、そこには親類縁者がいならんでいた、鎌二郎は刀を左手に持って、立ったままでおれをそうどなりつけた、卑しい売女を囲っていながら、こんな法要をして生きている者はごまかせても、死んだ姉のたましいはごまかせないぞ、とね、いまにも抜打ちをしかけそうなけんまくだったよ」
「それがどうした」
「べつに」と云って、安宅は薄雪の上へ坐ったまま肩をすくめた、「――鎌二郎は実際には抜かなかったが、今夜は本当に斬られるらしい、そうなんだろう」
芳村は答えなかった。
「二度あることは三度というが」安宅は大きく溜息をし、首を振った、「――二度めでけりがつくとは思わなかった」
「おりうから手をひくか」
「斬るんじゃないのか」
「これが最後だ」