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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「人間にはでき心というやつがあります」と芳村は答えた、「また、おりうはあなたに対しては、もう女になっていますからね」

安宅は酒を啜ってから、ふと眼をつむった。幾たびかしがみついてきたおりうの、熱いような躯のほてりや、ときとすると強く匂った躰臭が、現実のように思いだされたのだ。安宅の眉間に皺がよった。けれどもそれはすぐに消え、彼は眼をあけた。

「よけいなことをきくが、いまなにをしてくらしているんだ」

「用心棒です」

安宅は不審そうな顔をした。

「博奕打のね」と芳村は云った、「あなたなどは知らないだろうが、賭場のたつときとか、博徒どうしの争いなどに、この刀を役立てるというわけです、人間の屑でなければやらない仕事ですがね、金にはなるし、おりうのあとを追うには都合がいいんです、たいていの土地で仕事にありつけますからね」

「それに、あれだけの腕があればな」

「腕ですって、冗談じゃない」

「むろん冗談じゃあない」と云って安宅は酒を飲んだ、「さっきあの空地でみたが、おれにはまったく勝ちみがなかった」

「冗談を云わないで下さい」芳村は苦笑いをした、「私のは実地に斬りあっただけの、法もなにもない乱暴なものです、私のほうこそ、あなたに抜き合わされたとき、これはしまったと思いました」