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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
おりうではないな、自分を云いくるめるように、安宅は心の中で首を振った。芳村という男もそんなおろか者ではないようだし、おりうはなおさら、そんなことのできる性分ではない。まったく違う人間だ、と彼は断言するように思った。
「畠中は滝口っていう言葉を知っているか」
「話の腰を折るじゃないか」畠中は振り向いて安宅を見た、「それがどうした」
「知っているかときいたんだよ」
「滝の落ち口のことをいうんだろう」
「そのとおり」安宅はにっと微笑した、「――珂知川の上流に十三の洲がある、水はその洲にさまたげられて、離れたり合ったりしながら流れている」
「なんの話だ」
「合ったり離れたりして来たその流れが、滝口のところで一つに合し、すさまじい勢いでどうどうとなだれ落ちるんだ」
あの夜「衣笠」の裏手から、狂ったように走りだしていった、おりうのはだしの姿を思いだしながら、なにかをいとおしむように、もう一度やわらかな微笑をうかべた。
「おまえ酔っているのか、益村」
「らしいな」と安宅が云った、「だから杉原の縁談のことなんぞもちだしっこなしだぜ」
畠中は振り向いて睨みつけたが、安宅はぜんぜん気がつかないようであった。