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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
この夜おそく民弥は板倉様のお長屋――自分の住居へ帰って来た。
せっかくめぐり逢った親の敵の、三十郎を討ち損じ、無念残念に思ったが、どうすることも出来なかったので、住居へ帰って来たのであった。
自分の部屋へはいって見た。
と、どうだろう人形箱がない。
「や!」
とばかり驚き顔色を変えたが、なお押入れや戸棚などを探した。
ない!
人形箱はどこにもない。
萩丸の書いた宥免状、紀州表で捕えられた、同志十数人の生死にかかわる、大切至極の宥免状を、隠して置いた人形の箱!
それがないのだ!
それがないのだ!
民弥は卒倒しようとした。
(もしや使僕などが気を利かせすぎて、あらぬ所へ仕舞ったのかもしれない)
こう思って使僕を呼んだ。
「ああその箱でございましたら、姉小路のお殿様が、人をして担がせて先刻どこぞへ、運ばせやりましてござります」
と、こう忠実な使僕は云った。
「ナニ姉小路様が人をしてどこぞへ?」
いよいよ民弥は仰天し、すぐに姉小路卿のお部屋へ行った。
卿はまだ寝てはいなかった。
「人形箱なら心配せんでもよい」
と、姉小路卿は長閑そうに云った。
「お前も知っている梶子という婦人、あれが先刻やって来て、そういう人形でありましたら、妾も明後日京へ参りますゆえ、妾が持って参りましょうとな、大変親切に云ってくれたので、ではお願いいたし