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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

云い云い膝をよせて行った。

「云ってみますればお預けをくった、チンコロというのが今の妾、おいしいたべものが眼の前にある、でもどうにも手が出せない。……いっそおいしい食物がねえ、眼の前にさえなかったなら。……いいえ、眼の前になかろうものなら、なおのこと妾は寂しくて、いたたまれないでござりましょうよ。……はいご返杯」

と杯を出した。

「いただきましょう」

と民弥は云い、男としては優しすぎるような手を、つと延ばして杯を受けた。

と、杯の底の下から、梶子の指が民弥の指を抑えた。

「ホ、ホ、ホ」

「ハッハッハッ」

「これお解り?」

「さあ、それは……」

「おわかりにならない?」

「さあ何んとも……」

「一本の指で抑えましたは……」

「一本の指で抑えられました」

「いこうかという意味ですの」

「一本だからいこうかとな」

「で、あなたさまにおぼしめしがあったら」

「…………」

「三本の指で妾の指を……」

「ははあ拙者の三本の指で……」

「妾の指をグッと握る」

「あなたの指をグッと握る」

「と、さんせいということになり……」

「ははあなるほど、三本だからさんせい」

「今夜ビロードの夜具の襟へ、二つ枕を並べまして……」