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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

それが燈火の淡い光を、五彩の虹のように刎ね返して、二人の眼を幻惑させるのであった。

「まあ」

と梶子はつくづくと云った。

「あの宝玉の美しさ、女の髪の飾りにでもしたら、なんと見事でございましょう」

云い云い人形の方へ躰を寄せ、本能的に指を持って行った。

「梶子殿」

と民弥は驚き、全身に冷や汗をかきながら、

「雛は雛同士そっとして置き、さあ我々は我々同士、酒だ酒だ、酒のみましょう」

云い云い銚子をとりあげた。

(それへさわられてたまるものか! それへさわられて人形の胸に、ポッカリ例の穴があき、そこに大切な宥免状がある。――ということでも知られようものなら、これまでの苦心水の泡となる)

「さあ、梶子殿酒じゃ酒じゃ」

「はいはい」

と梶子は笑いながらも、人形の側からやっと離れた。

「わたし何んだかすっかり酔って、胸は苦しく頬はほてり……ホッホッホッ、胸の苦しさは、酒ばかりではございませんが……」

杯を受け、口にあて、いやらしいほどにも媚のある眼で、民弥の顔をながし眼に見、

「人じらしの民弥様、推量が悪いのやら、よすぎるのやら、もうもうわたしはじれったいようで……でもどうにもこのことばかりは、一人でじれておりましてもねえ」