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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

と、行手からも火の手があがった。

桔梗屋からの出火の火の手であった。

往来はいよいよ混乱した。

逃げ迷う人々、家財道具を運ぶ、荷車などが右往左往した。これが義党の面々にとり、せめてもの有利の助けであった。

追って来る二藩の武士たちの数は、今は数十人になっていたが、道は狭く人混んでいる。で、一度にかかることが出来なかった。

が、義党の面々が桔梗屋の前まで走って来た時、心を寒くする出来事が、忽然として起こって来た。

焔と煙りとで包まれている、その桔梗屋の門口から、覆面をした一人の武士が、一人の女をひっ抱え、片手に抜刀をひっさげて、嵐のように走り出して来た後から、雲助や博労や浪人くずれらしい、数人の者によって大きな木箱が、家財かのように運び出され、その後から民弥が衣紋とり乱し、頭髪を乱し血相変え、抜刀を揮って追っかけて出た。――という意外な出来事であった。

兵庫は眼早く民弥を認めた。

「松浦氏そのありさまは?」

「鵜の丸殿か! 無念無念無念! ……宥免状入れました人形箱を……ご存知の刃三十郎と、其奴との一味の無頼の徒に、ウ、奪われ、ト、取られ! ……あれあれあそこへ担がれて行く箱こそ、人形箱にござります! ……女を抱えて走ってゆく武士こそ、刃三十郎にござります! ……攫われて行く女は梶子!」