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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

菊女はいくらか頬を染めて、兵庫を見ながら不安そうに云った。

「お願いいたすかも知れませぬよ」

「…………」

「厭なことでも義党のためじゃ」

「それはもう……もうもうそれは」

菊女はこう云うと眼を伏せた。

しばらく三人は黙っていた。

金糸鳥の啼き声も聞こえなくなった。

どこかへ飛んで行ったのであろう。

「さて今度は日と時と場所だが……」

ややあってから兵庫が云った。

「萩丸殿いつ何時頃、どこへ行くかということを、確実に知りたいものでござるな」

「拙者探るでござりましょう」

民弥は自信があるように云った。

「そうしてお知らせいたすでござろう」

またここで兵庫は菊女を見た。

「菊女殿、腕揮われい」

「まあ」

と菊女は怨ずるように、そうして無情を訴えるように、眼に薄く涙を溜めて、兵庫の顔を睨むように見た。

「腕揮えなどと……そのようなお言葉……毒婦か妖婦ででもあるかのように……妾は嫌いでござります。……党のおためと仰せられたればこそ……心定めてはおりまするが……兵庫様! あなた様のお口から……妾お怨みに存じまする!」

「いやこれはわしが悪かった」

事実悪かったと思ったらしく、兵庫はそう云うと頭さえ下げた。