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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

彼女がこの行に加わって、青塚へ行く本意といえば、恋人民弥に逢いたいからであった。

しかし梶子はその民弥が、これまでのいろいろの事情から推して、明暦義党の同志であることに、もはや疑がいなかったので、心痛せざるを得なかった。

(何んといっても徳川様に対する、謀叛人の一人なんだからねえ)

(それだのに妾はその徳川幕府の、ご老中様の隠密なんだよ)

こう思うと辛かった。

(敵同士が恋しているようなものさ)

軍右衛門と小平は木蔭へ行って、何やらヒソヒソ囁き合っていたが、やがて梶子の側へ帰って来ると、小平が慇懃に梶子へ云った。

「あなた様には紀州家の御曹司の萩丸様をご存知で? ――従来ご存知でござりましょうかしら?」

「ご殿へ参上いたしました際、二、三度お目にかかり存じております」

と、梶子は穏かにそう答えた。

「その萩丸様こと青塚の郷に……」

「そうそう捕えられているそうだねえ。……江戸で何者かに誘拐されたと、そういう噂は承わりましたが……」

「それも明暦義党の輩が……」

「そうそう誘拐したんですってねえ」

「このお方が向こうにおられましては、青塚を攻めるにいたしましても、我々は不安でなりませぬ」