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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

裏門はまだ破られてはいなかった。

梶子はいつの間にかその姿を、農婦のようにやつしていた。

で、誰もが気がつかなかった。

(よし)

とばかりに頷いて、梶子は母屋へはいって行った。

城方の勢の一部をして、裏門の方へ廻らせたのも、実は梶子の指金からであった。

彼女としては恋人民弥に、一刻も早く逢いたかった。

ところが民弥はその梶子のいる、犬帰村方の勢に向かい、その手の指揮をしていたのであったが、そんなこととは知らない梶子は、本陣となっている嘉門の屋敷――そこへ行ったら民弥がいようと、そう思って迂廻して来たのであった。

梶子は母屋へはいって行った。

屋内も女や子供などで、混乱の極をつくしていて、誰もが右往左往していて、梶子に気附こうとはしなかった。

そうして屋内には若い男――戦いの出来る壮丁など、ほとんど一人もいなかった。

いてもそれは負傷者であった。

(しまった)

と梶子は第六感で思った。

(あの颯爽とした民弥さんが、こんなところに残っている筈はない。……戦場へ行っているに相違ない)

こう思うと失望した。

が、すぐに別のことを思った。

(城方の武士や紀州藩士の方に、萩丸様を奪ってみせると、そうわたしは約束したんだよ。