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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
だから実行しなければならない。梶子の面目がつぶれるからねえ。……そうでなくとも紀州家のご愛孫、萩丸様というようなお方が、こんなところに誘拐されているのを、幕府ご老中の隠密であるわたしが、見遁がして置くことは出来やアしない。ヨーシ、萩丸様をさがし出し、味方の陣へおつれしよう)
で母屋中をさがし廻った。
(萩丸様を守護している筈の、菊女とかいうあの女が、一人で先刻出て行った。ではおそらく萩丸様には、他の誰かの手に守られ、安全なところにいなければならない)
こう梶子には考えられた。
母屋の階下にはいなかった。
(もしや二階に)
とこう思い、梶子は二階へ駈け上がって行った。
二階には誰もいなかった。
二階などに悠暢に隠れているような、卑怯者は郷民にないかららしい。
梶子は失望して下りようとした。
と、部屋の一所に、鎧櫃らしい物が置いてあったが、その蓋が少しもち上がった。
(おや)
と梶子は眼を見張った。
が、すぐにその眼は笑い、梶子の足はそっちへ進んだ。
「萩丸様!」
と呼んで見た。
「菊女かえ」
と返辞が来て、櫃の蓋が半分ばかり開いた。
女装こそはしているが、見覚えのある萩丸の姿が、窓から射している月光に照らされ、ぼんやりと梶子の眼に見えた。