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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「それがよろしゅうございます。……さて」

というと腰へ手をやり、嘉門は矢立てを抜き出した。

そうして懐中から半紙を出した。

「萩丸様、字の稽古で」

嘉門は矢立てから筆をとり出し、それを萩丸へ握らせた。

「御父様。――とお書きなさりませ」

「御父様ってどう書くの?」

痴呆になっている萩丸には、そんな文字さえ書けないのであった。

「まず『御』とこのように」

「そう」

と萩丸は「御」の字を書いた。

が、その偏は「彳」ではなくて、「イ」になっているのであった。

「それは『イ』でございます。『彳』でなければいけません」

「ギョウニンベンって何んのこと」

「これがギョウニンベンでございます」

嘉門はそれを書いて見せた。

「ああそうかい、さあ書いたよ」

やっと萩丸は「御」の字を書いた。

「さあさあ今度は『父』という字を」

「父という字だね、さあ書いたよ」

画の少い字だったので、「父」という字はともかくも書けた。

「今度は『様』という字でございます」

「『様』という字、さあ書いたよ」

しかしその字は間違いだらけで、やはり偏など「禾」になっていた。

「それは『禾』でございます。『木』でなければいけません」