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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「まあ」
と叫ぶと菊女は部屋から、廊下へ飛び出し玄関の方へ、よろめきながら走って行った。
身なりの卑しい男ではあったが、一人の男が土間に立っていて、菊女の姿を見かけるとすぐに、
「おおあなた様が菊女様で、私は町の者でございますが、道を来かかると一人のご浪人様を、大勢のナラズモノが取り囲み、そのご浪人様に打ってかかり、そのご浪人様はお気の毒にも、大変なお怪我をなさいまして、とうとうお仆れなさいましたので、私がご介抱いたしますと、『鵜の丸兵庫という者であるが、吉野屋に菊女という女客が……』」
と、出来事をこまかく話し出した。
恋人兵庫にかかわる事件!
しかも大怪我をしたという!
菊女はすっかり動顛してしまった。で、話を皆まで聞かず、
「ようお知らせくださいました、厚くお礼申し上げまする。……すぐにわたくし参りまする、どうぞご案内くださいませ!」
「ハイハイご案内いたしますとも、ご案内して来るようにと、兵庫様よりのご依頼なので……」
「しばらくお待ちを……」
と云いすてて、菊女は部屋へ走りかえり、こればかりはいつも放さない、長目の懐刀を帯へ※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)むと、ふたたび玄関へ引き返して来、