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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

代五郎と孫九とが菊女を担い、一同小屋から飛び出した。

とたんに大音に叫ぶ者があった。

「待て三十郎、逃がしてなろうか! ……とうとう見付けた。遁がそうや! ……親の敵、観念せよ!」

それはこの時非人小屋を尋ねて、ここまでやって来た松浦民弥で、松の木蔭から躍り出した。

「やア担がれおるは菊女殿か! ……さては三十郎おのれがおのれが、吉野屋より誘拐し参ったな! ……悪虐無道、残忍な奴め! ……いよいよ許されぬ覚悟いたせ」

躍り込んで斬りつけた。

引っ外した三十郎、刀を抜くと上段に構え、

「おお民弥か、松浦氏か、アッハッハッ、また逢いましたなア! ……逢っては別れ、別れては逢い、いやお互いに執念深く、追いつ追われつしていることで! ……拙者にしてからが少し飽きた! ……ヨーシ今日こそ一思いに、息の根止めて成仏させてやる! 参れーッ」

と吼えてジリジリ進んだが、その騒ぎに驚いて、非人小屋の数々から、十数人の非人が飛び出して来たのへ、

「やアお仲間の方々に申す」

と、隙かさず三十郎は声をかけた。

「こいつは拙者を親の敵などと、云いがかりをつけて永の年月、つけ廻している悪侍でござる! ご存知の通り拙者は善人、それにそちたちのいわばお仲間、さあさあ拙者に味方して、そいつを叩き伏せてくだされい!」