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かがりびのおんな
篝火の女
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 页
と、済まないような心持に、ふと、瞼を熱くした。
けれど、萩乃は、元気者だった。いつも、愛嬌のある黒い糸切歯を見せて、愁わしげな顔をしたこともない。
今も、やがて、いそいそと戻って来て、
『姫さま!』
と、息を弾ませて寄り添った。
『どうでした』
『やはり、姫さまはお偉いと、つくづく頭が下がりました』
『そんな事より、笛の持主は』
『上杉家の乱波者で、安中三郎様の手勢についている石田大七殿でございました。――そして、笛もやはり、姫さまのお察しどおり、あの杜鵑管でございました』
『では、三郎様が、私へお便りを下さりたい為に』
『そうです。この笛を携えてゆけば、お疑いもあるまいし、又、姫さまの居所をたずねるにも、何かの便りになろうというお考えで、石田大七殿へ、お預けなされたのだそうでございます』
『そうか……』と、八雲は、あれ以来毎日、思いつめている三郎進の姿を、今も濃く瞼に描いているように、
『――してお手紙は』
『これに』
萩乃は窓を閉めて、なお屋敷の庭や次の間なども注意ぶかく見まわしてから、帯の間に秘して来た密書を、そっと、主人の手に握らせた。
八雲は、封を切ると、