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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 页

青空文庫

――然し、それも儚い恃みのような気もする。

やがて、並木の口にかかると、

『おっ、うしろから黄母衣が来たぞっ、道を寄れ』

足軽頭が、槍をふって呶鳴った。

黄母衣は使番の目印だ、急な使者は陣中でも駈けぬけをゆるされているし、列も横切る場合すらある。その黄母衣組の士が一騎に、ただの騎馬武者が五名ほど、一頭の裸馬を中に囲って、黄塵の中から次々に姿をあらわし、驀っしぐらに、眼のまえをよこぎって彼方へ駈け去った。

その一頭の裸馬の背には、ひとりの女性が、荒縄で縛りつけられていた。前後の武士は、相木熊楠の手の者だった。

『おう、女だ』

『おとといの夜、御本陣で捕まった女じゃ』

一瞬だが、足軽たちは、女という声だけで、わいわいわいとはしゃぎ合った。萩乃も、それをチラと見た一人であった。はッと思うと、全身の血がのぼって、起ちかけた頭に、ぐらぐらと眩いが来てしまった。

『やっ、餅売りが、牛車から落ちたぞ』

『病気が出たか』

『抛ってゆけ』

『いや、女は、かあいそうだ』

荷駄の小者が三、四人駈け戻って行って、埃の中から彼女をかつぎあげて来た。

――絶え間なく、牛車の轍は廻って行く。