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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 页

青空文庫

すべての事は、きょうの夜明けに、大七から越前守御父子へ申し告げてやった……。そして、ここに自分の心の底をのべて、恩師の御息女におわびすることも能うた。本懐です。では、萩乃、忠義をつくせよ、この熊楠の御手伝いは一時、そちの奉公は末が長い。……たのむ』

云い終ると、もう駒の背に返って、

『御一同、おさらばです』

黙然と、うなだれていた安中三郎進は、

『暫くお待ちください』

と、前へ駈けまわって、口輪をつかんだが、涙ばかりがあふれて、俯向いていて何も云えなかった。

熊楠は、その心もちを察して、

『おわかれ申したい、お離し下さい』

『相木殿。……す、すまなかった。拙者は、あなたに負けた! 敗れたのだ!』

『恋は、戦ではないはずです。そんなお考えは持たぬがよい。某の気持が徒労になる。――又、そこもとの厳父、越前守殿の死もむだになる』

『やっ? 父は、討死しましたか?』

『それも、お愁みあるな。お父上も、必ず御満足であったと思う』

『ああ、八雲っ。二人はどうしたらよいのか』

『三国峠に道がある。あの山の背をこえれば、おん身が祖先の国土だ。その国土を踏めば、八雲様も、そこもとも、自ら御決心が成るものだ』