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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

「東京と違います、京都です」

ローゼマリーは京都と云う地名を知らないらしく、いくら悦子が「京都」と教えても「東京」と云うので、悦子は懊れて、

「違います、ルミーさん、京都です」

「東京へ行きましょうねえ」

「違います、東京までやったら百停ります」

「そうですねえ、明後日着きますねえ」

「何ですか、ルミーさん」

「明後日東京へ着きますねえ」

ミョウゴニチと云うローゼマリーの発音が舌に縺れるせいもあるが、アサッテと云う言葉を使い馴れている悦子は、突然そんな言葉を云われたので聞き取れないのであろう。―――

「何のことですか、ルミーさん、そんな日本語ありません」

と云っている。

「エツコさん、この樹日本語で何と云いますか」

その時不意に青桐の葉をガサガサと鳴らして、そう云いながらペータアがそれに攀じ登り始めた。この青桐は枝を境界の向う側へさし出しているので、いつも子供たちはシュトルツ家の方から垣根の金網に足をかけて枝に掴まり、幹に登って行くのであった。

「それ青桐です」

「アオギリギリですか」

「アオギリギリと違います、アオギリです」

「アオギリギリ、………」

「アオギリ」

「アオギリギリ、………」