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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
のが五時ちょっと前頃であった。
この家は表門と裏門とが別の街路に面しているので、幸子はその足で運動かたがた裏から表へ一と廻りして、今日はベルが利かないために開け放しにしてある表門を這入り、玄関の前から直ぐ庭の方へ歩いて行くと、
「奥さん、―――」
と、その時又シュトルツ夫人が金網の垣から首を出した。
「エツコさんの学校、大丈夫でした。あなた安心ですね」
「ありがとございます。悦子の方は無事でしたけれど、妹の方がえらい心配なのです。わたしの旦那さん、今迎えに行っているのですけれど、………」
幸子はそこでシュトルツ夫人に分るような云い方で、もう一遍庄吉に語ったと同じことを語った。
「おお、そう、―――」
シュトルツ夫人は眉を顰めてチュッ、チュッと舌打ちをしながら、
「あなたの心配、わたし分ります。わたし、あなたに同情します」
「ありがとございます。そして、奥さんのところの旦那さんは?」
「わたしの旦那さん、まだ帰って来ません、わたし大変心配です」
「まあ、そんならほんとうに神戸へいらしったのでしょうか」
「わたしそう思います。―――しかし神戸も水出ました。灘も、六甲も、大石川も、皆水、水、水。