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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

つもりで、住吉川の辺まで出かけた。そして川の両岸を見て歩き、これは大事が起りそうだと悟って、水道路を野寄の方まで引き返して来た時に水に出遭ったのであると云う。それにしても、いったい彼が、(たとい水の出ることを予想していたとしても)最初から革のジャンパーなどで身ごしらえをして出かけたり、ことさらに野寄の辺をウロウロしていたと云うのは、少しおかしい。妙子が今朝は玉置の洋裁学院に来る日であることを知っていた筈の彼として、妙子の身に万一の危険が迫った場合には自分が真っ先に駈け付けようと云う下心を、もう家を出る時から抱いていたのではないであろうか。―――と云う疑問も起るのであるが、今はそのことには触れずに置こう。何にしても藤棚の上で妙子が聞いたのは、水に追われて彼方へ逃げ此方へ逃げしているうちに、偶こいさんが洋裁学院に来たはることを思い出したので、これは万難を排しても救助に行って上げなければならん、と心づき、遮二無二濁流の中を駈け付けた、と云うのであった。彼が学院の建物へ辿り着く迄の決死的な奮闘については、あとで妙子は頗る詳細な話を聞かして貰うことが出来たけれども、それもここに記す必要はあるまい。