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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「悦ちゃん、今夜はこいさんに奢って貰お。こいさんお金持やよってに」

「そやそや」

と雪子も嗾けるような口調で、

「何処がええ、悦ちゃん、洋食か、支那料理か」

「そうかて、まだお金受け取ってえへんねん。―――」

と、妙子は空惚けようとしても空惚けきれないで、ニヤニヤしながら云った。

「構めへんわ、こいさん、お金やったら立て換えとくが」

幸子は妙子の懐に、諸雑費を差引いても少からぬ売り上げが這入る勘定であることを知っているので、何とかして奢らせようとかかるのであったが、井谷の話ではないけれども、幸子と違って現代式にチャッカリしている妙子は、こう云う場合にちょっとぐらい煽てられてもそうやすやすと財布の紐を緩めない方であった。

「そんなら、東雅楼にしてんか、彼処が一番安いよってに」

「ケチやなあ、こいさんは。オリエンタルのグリル奮発しんかいな」

東雅楼と云うのは南京町にある、表の店で牛豚肉の切売もしている広東料理の一膳めし屋なのであったが、四人が奥へ這入って行くと、

「今晩は」

と、登録器の所に立って勘定を払っていた若い西洋人の女が云った。

「ああ、カタリナさん、ええとこで会うた。