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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「そう云えば、黄疸て云う病気、腋の下にお握りを挟んで置くといいんですってね」

「まあ」

と、相良夫人はライタアを点じながら怪訝そうに丹生夫人の顔を見て、

「あなた随分変なこと知ってるのねえ」

「両方の腋の下へお握りを入れて置くと、そのお握りが黄色くなるって云うわ」

「そのお握り、考えても汚いわね」

そう云ったのは下妻夫人であった。

「蒔岡さん、お握り入れていらっしゃる?」

「いいえ、あたし、そんな話初耳やわ。蜆汁飲んだらええことは知ってますけど」

「どっちにしてもお金のかからない病気ね」

と、相良夫人が云った。

幸子はこの三人がああ云う進物を持って来たりして、夕飯を呼ばれる心積りでいるらしいことは大凡そ察しがついたけれども、これから夕飯の時刻までまだ二時間ぐらいあると思うと、最初の予想に反して、とてもその間を勤めるのが辛い気がした。彼女は相良夫人のような型の、気風から、態度から、物云いから、体のこなしから、何から何までパリパリの東京流の奥さんが、どうにも苦手なのであった。彼女も阪神間の奥さん達の間では、いっぱし東京弁が使える組なのであるが、こう云う夫人の前へ出ると、何となく気が引けて、―――と云うよりは、何か東京弁と云うものが浅ましいように感じられて来て、故意に使うのを差控えたくなり、却って土地の言葉を出すようにした。