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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
すると一層大声で喚き出す。女中はそんな騒ぎが起っているのも知らずに寝ている。と云うようなことが始終であった。
そう云えば、この間から何かと心が慌しくて気が付きながら注射をすることを怠っていたが、今年も亦「B足らん」の季節になり、家族の誰もが幾分か脚気に罹っているらしいので、悦子もそのせいではないか知らん。―――幸子はそう思って悦子の心臓部に手をあてて見、脈を取って見ると、かすかに動悸が打っているので、翌日、痛がるのを無理に掴まえてベタキシンの注射をしてやった。そして、隔日に四五回続けた結果、動悸は静まって脚は軽くなり、体のしんどいのは多少直った様子であったが、不眠症の方はますますひどくなって行った。診て貰う程でもあるまいと思って櫛田医師に電話で相談して、アダリンを一箇寝しなに飲ますようにしてみたが、一箇ではなかなか利いて来ないし、量を殖やすと利き過ぎて寝坊をする。朝、余りよく寝ているので、寝かして置いてやると、眼が覚めるや否や枕元の時計を見てわッと泣き出して、今日も遅刻した、こんなに遅くては極まりが悪くて学校へ行かれないと云って喚く。そんならと云って、遅刻しないように起してやると、悦子ちょっとも昨夜寝られてえへんねんと、怒って布団を頭からすっぽり被って寝てしまい、眼が覚めると又遅刻したと云って泣き出す。