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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
兄さんも姉ちゃんも、何しろこんな家だけれども家賃も安過ぎると、誰に言訳するともなく云い云いしていたが、そんなことを云っているうちに、いつかその安さに釣られて居すわる料簡になったのであろう。それと云うのが、大阪にいればこそ家名や格式を気にする理由もあるけれども、東京へ来てしまえば「蒔岡」などと云ったって知っている者はないのだから、下らない見えを張るよりは、少しでも財産を殖やすように心がけた方がよい、と云った風な実利主義に転向したとしても不思議はない。その証拠には、兄さんは今度支店長になって月給も上り、それだけ懐にも余裕を生じた筈なのであるが、万事が大阪時代から見ると締まり屋になった。姉ちゃんも兄さんの旨を含んで、驚くほど倹約になり、日々の台所の買い物なども眼に見えて始末をする。―――尤も、六人もの子供の食事を賄うのだから、お菜一つ買うのにも頭を使うと使わないとでは随分な違いになる訳であるが、賤しいことを云えば、お惣菜の献立なども大阪時代とは変って来て、シチュウとか、ライスカレとか、薩摩汁とか、なるべく一種類で、少しの材料で、大勢の者がお腹一杯食べられるような工夫をする。