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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
「けど、そんならそうとはっきり云うたらええのんに、今でも時々、雪子ちゃんの部屋がないのんが不都合やなあ云うて、人の顔を見たら言訳するのんが可笑しゅうて、―――」
「まあ、人間云うもんはそう一遍にガラリ変ってしまう訳には行かんさかいに、多少は体裁も作るわいな」
「うち、今にそんな狭いとこへ行かんならんのん?」
と、妙子は自分に一番痛切なことを聞いた。
「さあ、………こいさんが来たかて寝るとこも何もあれへんけど、………」
「そしたら、まだ当分は大丈夫か知らん」
「兎に角今のとこ、こいさんのことなんぞ忘れてるらしいわ」
「おい、もう寝よう。―――」
煖炉棚の置時計が二時半を打ったので、貞之助がびっくりしたように立ち上った。
「―――雪子ちゃんかて今日は疲れてるやろ」
「見合いのことで相談があってんけど、ま、明日にするわな」
雪子は幸子のそう云う言葉を聞き流して、先に二階へ上って行ったが、寝室に這入って見ると、悦子は枕もとのテーブルの上にさっきの土産物の数々を、―――阿波屋の草履の箱までも列べて眠っていた。その、スタンドの灯影の中にある安らかな寝顔を覗き込んだ時、彼女は又もう一度、この家へ戻って来られたことの嬉しさが込み上げて来るのを感じた。