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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
はならない顔であった。―――瀬越側は、当人一人と云うのも淋しいし、と云ってわざわざ国元から近親者を呼び寄せるべき場合ではないので、幸い瀬越の同郷の先輩で、房次郎の勤め先国分商店の常務をしている五十嵐と云う中老の紳士がいたのを、房次郎から頼んで介添役に出て貰うことにし、此方側は貞之助夫妻に雪子の三人で、主客八人と云うことになった。
その前の日、幸子は当日の頭髪を拵えるために雪子と二人で井谷の美容院へ出かけたが、自分はセットだけのつもりなので、雪子を先にやらせて、番の来るのを待っていると、井谷がちょっと仕事の隙に這入って来て、
「あの、―――」
と、小声で云いながら彼女の顔の方へ腰をかがめた。
「―――あの、実は奥さんにお願いがございますの」
井谷はそう云って、耳元へ口を寄せて、
「こんなこと、申し上げないでも無論お分りと存じますけれど、明日は何卒奥さんは思いきり地味にお作りになって戴きたいんですの」
「ええ、それは分ってます」
と、幸子が云うのに押っ被せて、
「でもちょっとぐらい地味にお作りになったんではいけませんのよ。ほんとうに、思いきり地味にして下さらなけりゃ。