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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

であるから、そう云っても凡そ限度があって、「あれでもまだいけない」と後になってから云われることがしばしばあった。

「………ええ、ええ、いつも皆さんにそない云われますのんで、よう分ってます。仰っしゃるまでものう、明日はほんまに地味にして行こう思うてましてん。………」

待合室には幸子が一人いただけで外には誰も聞いている者はなかったけれども、すぐ隣の室の間仕切に垂れているカーテンが絞ってあって、雪子がその部屋の椅子にかけつつ頭からドライアーを被せられている姿が、鏡に反射して二人の方へまともに見えていた。井谷のつもりでは、ドライアーを被っているから当人に聞える筈はないと思っているのらしいけれども、二人がしゃべっている様子は雪子の方にもよく見えていて、何を話しているのか知らんと、上眼づかいに、じっと此方に瞳を据えているらしいので、幸子は唇の動き工合からでも推量されはしないであろうかとハラハラした。

当日雪子は姉妹たちに手伝って貰って三時頃から拵えにかかったが、貞之助も事務所の方を早じまいにして帰って来て、化粧部屋に詰めると云う張り切り方であった。貞之助は着物の柄とか、着附とか、髪かたちなどに趣味を持っていて、女たちのそう云う光景を眺めることが好きなのであるが、一つにはこの連中が時間の観念を持たないことに毎度ながら懲りて