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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
いらっしゃいますと云う。とこうするうち六時五分前になって漸く車が来てくれたが、折柄土砂降りに降り出した中を運転手がさしかける番傘に送られて順々に一人ずつ走って行きながら、したたか襟元に冷たいしぶきを受けた幸子は、車内に納まってほっとすると同時に、そう云えば雪子の見合いと云うと、この前の時も、その前の時も、雨が降ったことを思い出していた。
「いやア、三十分遅刻してしまいました。―――」
貞之助は、外套預所のところまで迎えに出ていた井谷を見ると、挨拶よりも先ず詑び言を並べた。
「―――今日は日が吉いので、結婚が多いところへ持って来て、突然の雨で、車がなかなか来てくれなかったもんですから、………」
「ほんとうに、私も此処へ参ります途中で、お嫁さんを乗せた自動車を何台も見かけましたわ」
そう云って井谷は、幸子と雪子とがコートを預けている隙に、
「あの、ちょっと、―――」
と、貞之助に眼で合図をして蔭へ呼びながら、
「只今彼方で瀬越さん達にお引き合せ致しますが、………あの、その前にちょっとお伺い致しますが、もう蒔岡さんの方ではすっかりお調べがお済みになっていらっしゃいますのでしょうか」