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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
―――御承知のようにあの妹は器用なたちだものですから、なかなか上手に舞うのですの、小さい時分に習ったことがあるせいかも知れませんけれど」
「私、専門のことはよく分りませんが、山村の舞と云うものは、あれは実に結構なものですな。何でも彼んでも東京の真似をしますのはよくないことでございますよ、ああ云う郷土芸術は大いに盛にしなければ、………」
「ああそうそう、こう見えてもうちの常務さん―――じゃあない五十嵐さんですか、―――」
と、房次郎が頭を掻きながら、
「五十嵐さんは歌沢がお上手なんですよ、もう何年来稽古をしておられましてね」
「ですが、ああ云うものをお習いになると、―――」
と、貞之助が云った。
「―――五十嵐さんのように上手になられれば別ですが、最初のうちは無闇に誰かに聴かしたくなって、つい足がお茶屋の方へ向きはしませんか」
「へえ、へえ、確かにそれはございますな、家庭的でないと云うことが日本音曲の欠点でございまして。―――尤もわたくしは別でして、決して御婦人に惚れられようなんと云う野心を持って習い出したのではございません。もうその点は至って堅人でございますのでな。