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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「高谷君」

「なんだい?」

「きみのその冬服は新しいのかい?」

と堀口生がきいた。

「新しい。僕は入学した時いきなり夏服を作ったからね」

と高谷君が答えるやいなや、堀口生は、

「お初!」

といって、力いっぱい背中をたたいた。高谷君はまったくの不意打ちで息がとまるくらいだった。

「痛いね」

「なあに、お初を祝ったのさ」

「もうたくさんだよ」

とことわって、高谷君は祝いかえす法を考えたが、相手は落第生だから去年のを着ている。

「僕のは古くて物がわるい。セルだ。きみのは上等だね。メルトンかい? ラシャかい?」

「さあ、どっちだろうかね」

「ラシャかしら」

と堀口生は服地をつまむまねをしてひどくつねった。

「痛い」

「メルトンかしら」

「痛いよ。きみ」

「ラシャらしい」

「痛いってば」

「きみも神経があるんだね?」

「冗談じゃないぜ」

と高谷君は腕をさすりながらつねり返す口実を考えたが、相手はセルだと前もって明言しているから仕方がない。

「メルトンかな?」

「よせよ。痛い」

「ラシャかな?」

と堀口生は時々思い出してつねった。

照彦様と正三君はもとよりのこと、この主従と特に親しい三名は代わり代わりに難くせをつけられる。