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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

とお菊も笑えば、そばにいたお藤やお美津も笑った。女中たちもよろしくない。若様をばかにする風がある。

まもなく照彦様と正三君は奥様のところへご挨拶にあがった。

「ただいま」

と照彦様が一つおじぎをする。正三君はなにもいわないかわりに二つ念入りにやる。

「ご苦労でしたね」

と奥様がいたわってくださる。この日正三君は特に顔を見られまいとして、おじぎの姿勢のままひきさがりはじめたが、

「内藤さん、あなたどうなさいましたの?」

とさとられてしまった。鼻よりも唇の方が出ているから仕方がない。

「内藤君は学校で喧嘩をしたんです」

と照彦様が説明した。

「まあ」

「堀口というわるい奴が初めに僕の帽子を払いおとしたものですから、内藤君がおこって突きとばしたんです」

「内藤さん、まあお見せなさい」

と奥様が立ってきて口のあたりをあらためた時、正三君の目から大つぶの涙がポロリポロリとこぼれた。

「お痛うございましょう?」

「ウウウウウウ」

と正三君は泣きだした。今まではりつめていた気が奥様のやさしいお言葉で急にゆるんだのだった。照彦様もシクシクやりだした。やはり恩義をわきまえている。