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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

お母さんは髪をなぜつけたり着物を着かえたり大騒ぎだ。いくらふいても汗が流れた。

これは内藤家代々を通じて最も光栄ある日の一つだった。奥様は三十分ばかりおくつろぎになってから、ご機嫌うるわしくお引き取りになった。裕助君は不在だったが、皆々ありがたいおことばをたまわったこと申すまでもない。お母さんはもうすっかり、得心がいった。後から奥様をほめるやほめないではない。

「ああいうおやさしいお方なら、私、もうなんにも申すことはありませんわ。『子持ちは相身たがい見です。このお子さんを手ばなすお心持ちは私もお察し申し上げておりますから、けっして悪いようには計らいません』と涙を浮かべておっしゃったとき、私もホロリとなって、これではどんな犠牲でも喜んでおひきうけしなければならないと存じましたよ」

とやはり侍の娘である。夕刻主人公が役所から帰るのを待ちわびて、

「あなた、どうぞこれからお礼を申し上げに伺ってくださいませ」

と意気ごんでいた。

「まあまあ、今夜すぐにもおよぶまい」

「でも、あなた」

「またおみやげを頂戴したんだね」

と内藤さんは恐縮だった。

「奥様は正三をごらんがてらおいでになったのかもしれませんわ。