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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

一番おしまいに安斉先生がお母様から頼まれたそうだ」

「ははあ」

「お父様のお居間に坐りこんで、お酒をおやめになるとおっしゃるまでは動かないといいだした。安斉さんはお父様にも先生だ。たいていの家来はなぐってしまうが、先生には手が上げられない。安斉さんはそれを知っているものだから、さんざんにいったあげく、これほどまで申しあげてもご承知は願えませんかときいたそうだ。『知らん。下がれ!』とお父様はどなりつけた。すると安斉先生は涙をホロホロこぼして、『この上はつぎの間へさがって大殿様にお詫びを申しあげます』といったそうだ」

「大殿様ご在世の頃でしたか?」

「いや、もうなくなっていられた。つまり切腹の意味さ」

「ははあ」

「安斉先生はつぎの間へさがったが、お父様は心配になってのぞいてみた。すると大変! 『ご短慮、ご短慮』といって、富田さんがおさえている」

「ほんとうにやるつもりだったんですか?」

「いや。もう突きたてていたんだ」

と照彦様はバットで切腹のまねをして見せながら、

「引きまわせばすぐに死んでしまう。お父様は安斉先生の手にすがりついてお泣きになったそうだ」

「ははあ」