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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
藩主はひじょうに悦び、二人に対して特に褒美をたまわったくらいであるが、若君とかれら二人との関わりもそのとき限りではなく、ずっと後の思いがけない対決へと糸をひいていたのである。――半三郎と金之助とのあいだに、一つの変化が起こったのは三年まえのことであった。半三郎は二十歳のときから藩校の助教を勤めていたが、古学や老子を教えたという咎で役を停められ、五十日の謹慎を命ぜられた。朱子以外は禁じられていた時代ではあるが、多少とも陽明や老子をのぞかない者はない、半三郎が逐われたのは教官の嫉視からで、詰るところ彼自身の学問に対する良心と、ぬきんでた才腕が仇となったわけである。半三郎はそれ以来ひどく性格が変り、酒と賭博に耽りだした。金之助には彼の気持がよくわかるので、意見がましいことは決して云わず、借りに来れば黙って金も貸していた。しかし近頃では人の噂にものぼるようになったし、数日まえには彼の父親に呼ばれて、忠告をして呉れるようにと頼まれたのである。……半三郎の父は公郷四郎兵衛といって、六千八百石あまりの寄合席におり、一時は次席家老を勤めたこともあるが、老臣のあいだに疎隔する事が起こって自分から辞し、現在では寄合の閑職に逼塞していた。