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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
。沢渡と佐竹とは遠い縁者にも当っていたし、金之助の父の助左衛門と千五郎とは極めて昵懇のあいだがらで、家族も古くから近しく往来していた。ことに由利江の生母が亡くなった当時、それは彼女が十二歳になった初夏のことであるが、金之助の母の茂登女は由利江をあわれむ余り家へつれて来て、百日ばかりそばに置いて世話をした。そのときのことは金之助もよく覚えているが、由利江はいつものとおり微笑を湛えた明るい顔つきをしていて、男きょうだいのない珍しさからでもあろうか、金之助の部屋へもよく遊びに来たりした。
――思ったほど悲しがってもいませんね。
――早く死別する親子は縁がうすいと云う、やっぱりそういうものかもしれない。
――そのほうがはたの者には助かりますわ。
父と母とでそんな話をしているのを聞いたことがあった。金之助もそう思っていたのであるが、それは見かけだけのことで、由利江は独りになるときは泣いていたのである。しかもそれを金之助にみつけられたとき、おじさまにもおばさまにも黙っていて呉れるように、こんなことはごくたまにしかないのだからと、けんめいな口ぶりで頼むのであった。