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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

彼女は商売柄、「日々の麺麭」という僕の旧作が載っている雑誌を見つけ出してきて読んだようだが、云うことがいい。「わたし、おじさんを声援するわ。」

僕としては思いがけない知己を得たわけであるが、彼女はどうやら僕を少し買被っている気味がある。僕のことをたいへん苦労をした者のように思い込んでいるふしが見える。僕の書いたつまらないものが、彼女にそんな思い違いをさせたのならば、僕としては後めたい気がする。ひとつは僕の服装の貧しさがなにか曰くありげに見えるのかも知れないが、これはただ僕に稼ぎがないだけの話である。彼女はなかなかの勉強家で店番をしながらロシヤ語四週間などという本を読んでいるが、その本の中に「貧乏は瑕瑾ではない。」という俚諺を見出して云うことには、「わたしね、それを読んで、おじさんのことを聯想したわ。」ひどい買被りである。それは僕にだって、肉体の飢えを精神の飢えに代えて欲しい本を手に入れてそれに読み耽った思い出がないことはない。僕はかつてハムスンの「飢え」という小説を読んだとき、主人公が苦境に在ってよく高邁の精神を失わないことに感心した。僕にはとてもあの真似は出来ない。