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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
私は母に謝罪もしなかった。「学校なんか落第したって、大丈夫だよ、大丈夫だよ。」そんなことをぶつぶつ云っただけだった。母はただ赦してくれた。私を叱りもしなかった。加えて私は母に、なお私に学業を続けさせたいという母の念願を断念させた。私は学校を退いて神田のある古本屋に奉公に行った。伊沢先生の許を辞して間もなくのことである。本屋にお目見得をした翌晩おそく、私は家の戸口をがたがたいわせた。「清かい。」と云う母の声に私はとむねを突かれた。母はすぐ戸口を開けてくれた。私が佇んだまま敷居を高くしているのを見て微笑いながら、「お上りなさい。」と母は云った。母はやさしかった。このときも何も云わなかった。他人の中で一日暮らしてもう心細く、母の懐が恋しくなってしまったのだ。「清かい。」と呼んだ母の声音は今も耳底に聴くことができる。私のいくじなしを母はよく知っていたのだ。
もとより商人になろうという気など私にありはしなかった。ただ学校がいやだったのだ。無性にいやだった。学校をさえやめてしまえば文句はないのだった。私はずるずるに我を張り通し、結果は思い通りになった。学校は当分行かずに済み、また他人の中へ出て辛い思いをしなくともよくなった。