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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

やがてお熊が帰って来たので、延津弥は待ちかねたように訊いた。

「お前、あったかえ。」

「どこも売切れだというので、千生さんの家へ行って貰って来ました。」

「千生さんの家……。千鳥さんへ行って、お貰い申して来たの。あら、まあ、どうも済みません。」

と、延津弥は繰返して礼を言った。

我が思う壺にはまったので、千生は内心得意であった。

二

千生はそれから小半時ほども話して帰ると、入れちがいに今戸の中田屋という質屋の亭主金助が来た。金助は晦日まえで、蔵前辺に何かの商売用があって出て来たついでに、延津弥の家へちょっと立寄ったのである。表向きは独り者といっても、延津弥がこうした旦那の世話になっているのは、その当時において珍しいことでもなかった。

金助は二階の六畳へ通された。きょうは晦日のお手当を持って来たのであるから、延津弥は取分けて愛想よく彼を迎えた。かれはお熊に言い付けてかの牡丹餅を持ち出させた。

「ああ、ここにも牡丹餅があるね。きょうは内でも食わされた。」と、金助は笑った。

「まあ、ここのも一つ食べてください。まさかに毒もはいっていませんから。」

女にすすめられて、金助はその牡丹餅を一つ食った。