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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
延津弥も食った。晦日まえで忙しいというので、金助は長居もせずに帰った。事件はこれから出来したのである。
金助はそれから二、三ヵ所の用達しを済ませて、その日の七つ(午後四時)ごろに今戸の店へ帰ったが、途中から胸が苦しくなって、わが家へころげ込むと共に倒れた。家内の者もおどろき騒いで、すぐに近所の医者を呼びにやると、医者は暑気あたりの霍乱であろうと診察した。そういうことのない呪禁に、きょうは黄粉の牡丹餅を食ったのであるが、その効のなかったのを人びとは嘆いた。医者もいろいろの手当てを加えたが、金助は明くる晦日の夜明け前にとうとう息を引取った。
最初は霍乱と診立てた医者も、後には普通の暑気あたりではないらしいと言い出した。何かの食い物の中毒ではないかというのである。二十九日の出先は判っているので、中田屋ではそれぞれに問い合せの使を出したが、残暑の強い折柄であるから、どこでも茶のほかには何も出さなかった。但し午飯はどこで食ったか判らなかった。延津弥のことは本人も秘密にしていたので、家族も知らなかった。
閏七月二日の朝五つ時(午前八時)に金助の葬儀は小梅の菩提寺で営まれた。