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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
毛はかなりに太いもので、それは人間の手で丁度ひと掴みになるくらいの束をなしている。油紙に包んで革文庫に蔵められて、文庫の上書きには「妖馬の毛」と記されてある。それに付帯する伝説として、神原家に凶事か吉事のある場合にはどこかで馬のいななく声が三度きこえるというのであるが、当代の神原君が結婚した時にも、神原君のお父さんが死んだ時にも、馬はおろか、犬の吠える声さえも聞えなかったというから、この伝説は単に一種の伝説として受取っておく方が無事らしいようである。
しかしその「妖馬の毛」なるものは、明らかにその形をとどめていて、今でも家宝として秘蔵されている。その由来に就いては、茂左衛門基治の自筆と称せられる「馬妖記」という記録が残っているので、江戸時代はもちろん、明治以後になっても遠方からわざわざ尋ねて来て、その宝物と記録とを見せてもらってゆく人もあったということである。わたしも先年、出雲大社に参拝の帰路、津山の在に神原君の家を訪うて、その品々をみせて貰うことが出来た。
その記録にはこういう事実が伝えられている。
文禄二年三月、その当時、小早川隆景は朝鮮に出征していて、名島の城には留守をあずかる侍たちが残っていた。